DISEASE

希少がん(特に後腹膜肉腫)

名古屋大学病院における希少がんセンターの取り組み

名古屋大学病院では2021年10月に東海地方初となる「希少がんセンター」を設立しました(センター長 横山幸浩、副センター長 西田佳弘[整形外科])。また2022年8月には「希少がんホットライン」(月・水・金 午前10時~午後2時 052-744-2667)を開設し、患者さんや医療関係者からの希少がんに関する様々な相談に対応しております。
希少がんとは人口10万人あたりの年間発生数が6人未満の悪性疾患のことで、これには様々な疾患が含まれております。

後腹膜の肉腫

希少がんは稀であるがゆえに多くの施設でその治療経験が乏しく、診断法や治療法も未だに十分に確立されておりません。厚生労働省が発表した第3期がん対策推進基本計画の中でも(平成30年3月9日閣議決定)、希少がん医療の充実が掲げられており、希少がん対策はまさに重要な政策の一つになっております。

第3期がん対策推進基本計画

名古屋大学病院における希少がんセンターの取り組み

希少がんの中でも特に治療が難しい後腹膜肉腫

後腹膜肉腫とは?

希少がんの15%は後腹膜に発生し、これを後腹膜肉腫と呼びます。肉腫とは癌のように体の表面を構成する細胞から発生するものではなく、体の奥で我々を構成している筋肉・神経・脂肪組織などから発生する悪性腫瘍のことです。また後腹膜という場所は、前方は壁側腹膜、後方は横筋筋膜というものに囲まれたスペースになります(図A CT画像の横断面、図B CT画像の矢状断面における後腹膜腔[黄色破線で囲った領域])。

また後腹膜腔の頭側は横隔膜に連続し、尾側は骨盤底に連続します。後腹膜腔に所属あるいは連続する臓器としては、左右の腎臓、左右の副腎、膵臓、脾臓、十二指腸、小腸および結腸、膀胱、子宮、卵巣などがあります。すなわち後腹膜肉腫はこれらの臓器以外から発生した悪性腫瘍ということになります。また後腹膜腔には腹部大動脈、下大静脈、尿管などの重要な脈管があり、腫瘍は時としてこれらの脈管を巻き込んで存在します。

後腹膜肉腫の症状は?

後腹膜腔に腫瘍が発生しても自覚症状をもたらすことは少ないため、多くの場合別のスクリーニング検査時に偶発的に発見されます。また自覚症状がある場合は、腫瘤をお腹の上から触れたり、腹部の膨満感などがあったりすることが多く、このような症状が発生する時点では、すでに腫瘍がかなり大きくなっています。

後腹膜肉腫の診断は?

後腹膜肉腫の病態は実に多彩です(図)。その診断の多くはCT、MRIなどで行われますが、悪性度や腫瘍の生物学的活動度の判定にはPETも有用です(Nakashima Y, Yokoyama Y et al. 2023 Int J Clin Oncol)。また、腫瘍がどのような細胞から由来するものなのか、悪性度はどれくらいなのか、などを判定するためには腫瘍に細い針を刺して「生検」を行うことが有用です。生検の結果は治療方針の決定にも有用であるため、可能であれば行うことが推奨されます。

後腹膜肉腫の治療は?

一般的に悪性腫瘍の治療には①手術、②抗がん剤による治療(化学療法と言います)、③放射線治療がありますが、後腹膜肉腫に関しては①手術が最善の治療になります。様々な理由で手術が困難な場合に、②抗がん剤治療や③放射線治療が選択されることもありますが、これらの治療効果は限定的であり、可能であれば手術を行うことが望まれます。当科でも、後腹膜肉腫に対して積極的に外科的切除を行っており、2023年には約50例の後腹膜肉腫手術を行っており、その手術件数は年々増加しております。

一般的には、後腹膜肉腫の手術件数は年間10例以上であればハイボリュームセンター(手術件数が多い病院)と世界的にも認識されます。その意味では、当院は十分その基準を満たしております。また、後腹膜肉腫の手術においては、年間症例数が多いほど、その治療成績も良好であることが数多くの論文で報告されております。

当院において、過去5年間の後腹膜腫瘍手術件数は180件でありました。この中の多くの症例は、他院で切除不能あるいは治療困難と判断された症例になります。われわれはこのような症例にも積極的外科切除を行っております。後腹膜肉腫の手術は難しく、他臓器や大きな血管を合併切除しなければならないことも数多くあります。このため複数の外科系診療科が協力して手術を行わなければならないことも多く、手術時間も長時間にわたります。名大病院では消化器外科、泌尿器科、産婦人科、整形外科、心臓外科、血管外科、呼吸器外科などの複数の外科系診療科が協力して手術を行う体制が確立されており、難易度の高い後腹膜肉腫に対しても外科的切除が可能になっております。このような体制での手術成績は良好で、過去5年間180例における術後平均在院日数は18日で、過去15年間で、後腹膜肉腫手術に関連した死亡は1例もありません。

後腹膜肉腫で最も高頻度にみられる疾患は後腹膜脂肪肉腫です。この疾患は診断時に巨大であることが多く、後腹膜の臓器や脈管にも接しているため、手術時には他臓器を合併切除することが多くなります(約60%の症例で他臓器合併切除)。またこの疾患の特徴として、手術で切除を行っても高率に再発することがあります(約50%の再発率)。しかし我々は再発した場合でも、可能な限り積極的切除を行っております。最も手術回数が多い患者さんでは、8回もの手術を行っております。

当院で2005年から2021年に診療を行った後腹膜脂肪肉腫は101例で、このうち88例に手術を行いました。これらの患者さんでは、例え再発があっても積極的に手術を行っており、このような治療方針のもとでの後腹膜脂肪肉腫の治療成績は、5年生存率が85%、10年生存率が69%であり、諸外国の報告に比べてもより良好な成績となっております(一般的に5年生存率は60%ほど)。

後腹膜脂肪肉腫では下図のように大きな血管を巻き込むこともしばしばみられますが、腫瘍とともに血管を合併切除することで良好な治療成績が得られております。

施設によっては切除不能と判断された後腹膜肉腫でも、当院のように診療科横断的に協力できる体制であれば切除が可能であると判断されることも数多くあります。また、当院では手術による外科的治療だけではなく、化学療法部による抗がん剤の治療や、放射線科による放射線療法も必要に応じて行える体制が整っております。後腹膜肉腫あるいは希少がんでお困りの場合は、希少がんホットラインあるいは名古屋大学医学部附属病院セカンドオピニオン外来へ是非ご相談下さい。

希少がんホットライン

月・水・金曜日 10:00~14:00

TEL. 052-744-2667

名古屋大学医学部附属病院セカンドオピニオン外来 病診連携受付

月~金曜日 8:30~17:00

TEL. 052-744-2825

  • 土日・祝祭日・年末年始を除く

文責 名古屋大学希少がんセンター センター長 横山幸浩

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