DISEASE

胆道がん

胆道癌手術の治療成績の改善に全ての情熱を注ぐ

胆道癌は発見時にはすでに胆嚢・胆管の壁を超えて周囲に浸潤する進行例が多いことが特徴です。2023年になり薬物療法は3種類の薬を併用する時代となりましたが、その効果は満足できるものではありません。そのため、治癒の可能性がある切除療法が第一に考慮されます。一方、胆道癌は発生場所や進行度に基づき多彩な手術術式が存在し、その選び方は標準化されていません。すなわち、外科医、病院、地域により異なった手術適応や切除術式が行われているという事実があります。また、切除術式の多くは高難度、高危険度手術に属し、専門施設での施行が望ましい術式です。

胆道癌(胆管癌、胆嚢癌など)に対する切除の中でも、肝門部(領域)胆管癌、肝内胆管癌、胆嚢癌に施行される広範囲肝切除+胆管切除は、合併症率、手術関連死亡率が際立って高い術式です。これは日本のみならず世界共通の問題です。安全かつ質の高い切除治療を提供するには、手術技術だけではなく、手術前の安全性の評価・リハビリによる体力強化から始まり、術後の集中治療、合併症管理まで、高度な技術と豊富な経験に裏付けられたエキスパート施設であることが重要です。当科は1977年に最初の肝門部領域胆管癌切除を行って以来、50年超もの間胆道癌に対する肝切除に全てを注ぎ込んだ稀有な施設です。先々代の胆道癌切除のパイオニアである二村雄次先生、切除術式を発展させた梛野正人先生、現在は江畑がその指揮を執り、専門スタッフと共に安全性と根治性のバランスという難題に取り組んでいます。

胆道癌手術の治療成績の改善に全ての情熱を注ぐ 図1

図1 当施設における累積手術件数と手術関連死亡率の推移

(図1)1977年に最初の肝門部領域胆管癌切除を行って以来、皆様が元気に退院できることを目指し、研鑽を重ねてきました。教室の歴史とともに手術関連死亡率が低下しているのは、蓄積された経験知と科学的検証に基づく改善を繰り返した結果です。2020年から死亡率<1%を目標にしています。

(図2)安全性の改善とともに、手術後の長期生存の改善にも取り組んできました。上のグラフでは青、ピンク、赤とより最近の手術症例で、グラフの曲線が上の方に上がっていっている様子がわかります。これは教室の歴史とともに、術後の生存期間が伸びてきていることを表しており、例えば2016年以降に手術した患者様では、50%以上の方が術後5年目を超えて通院できるようになってきました。これには手術のみならず、術後の補助化学療法や再発時の化学療法など複合的な要因が考えられ、可能な手をすべて投入してきた結果と考えます。

胆道癌手術の治療成績の改善に全ての情熱を注ぐ 図2

図2 当施設における胆道癌切除症例の術後生存曲線の変遷

2021年11月、当科が参加した肝門部領域胆管癌に関する国際共同研究が海外一流雑誌に掲載されました(Ann Surg. 2021 Nov 1;274(5):780-788.)。本研究には、世界13カ国 (アメリカ、 カナダ、日本、 韓国、中国、 イギリス、 スイス、ドイツ、イタリア、フランス、スペイン、オランダ、ノルウェイ) から、30施設(日本の5施設を含む)が参加しました(図3)。当科は、世界各国から参加したエキスパート施設の中で研究期間中の胆道癌手術件数が最も多い施設でした。もちろん、死亡率はこれら30施設でも最低クラスで、安全性が高いことも示されました。肝門部胆管癌をはじめとする高難度手術では、手術件数の多い施設(ハイボリュームセンター)ほど、安全性が高い傾向にあり、本研究は、当科の手術実績(手術件数・安全性)および経験値の深さを改めて示すものとなりました。

胆道癌手術の治療成績の改善に全ての情熱を注ぐ 図3

図3 肝門部領域胆管癌の国際共同研究論文より登録手術件数に関する図 (Figure1)を抜粋

(図3)研究では世界13カ国から30の「胆道癌エキスパート施設」が参加し、それぞれの施設での肝門部胆管癌症例数や術後死亡率等を登録しました。「エキスパート施設」と呼ばれる施設の中でも当施設の登録件数は群を抜いており、安全性においても高いレベルにあることが示されました。詳細は以下の論文をご覧ください (Ann Surg. 2021 Nov 1;274(5):780-788.)。

私たちは、安全な手術治療を心がけつつ、切除限界にも挑んできました。それには技術的な限界、手術で残る肝臓の大きさの限界、年齢や基礎体力の限界など様々な方向の限界が存在します。他施設で手術が困難とされた患者さんでも、当施設ではもしかすると手術を含めた様々な治療を提案できる可能性があります。当科の胆道癌に特化した50年余の歴史により、 “胆道癌の名大”として広く世界に知られています。胆道癌と診断されましたら、ぜひ一度名古屋大学附属病院への受診をご検討ください。病気の程度、肝臓の状態、全身状態やご本人の希望を考慮し最適な治療を共に考えます。

今までの手術実績数

肝臓切除件数
2022年 60
2021年 63
2020年 59
2019年 63
肝臓切除件数
2018年 72
2017年 70
2016年 71
2015年 73
肝臓切除件数
2014年 66
2013年 67
2012年 66

胆管癌、胆嚢癌について

胆道癌(胆管癌、胆嚢癌など)による死亡者数は年間約1万5000人といわれています(厚生労働省人口統計による)。癌による死亡者の中ではまだ比較的少なく6番目ですが、その数は明らかに増加傾向にあり10年後には現在の2倍程度になるという予想です。

胆管癌、胆嚢癌とは?

肝臓から分泌される胆汁という消化液が、十二指腸に排出されるまでの通り道を「胆道」といいます。胆道癌とはその部分にできる癌の総称で、発生部位によって『胆管癌』と『胆嚢癌』に大きく分類されます。

胆管は肝臓内で細い枝に始まり、何本もの枝が次第に合流し太い管になっていきます。肝臓を出た所で左右2本の管になり、さらにこの2本が合流し1本の管(総胆管といいます)となって十二指腸の乳頭部につながります。肝外胆管の長さは約8センチで、肝臓に近い部分から肝門部(上部)胆管・中部胆管・下部胆管の3つに分けられます。“肝門部”とは肝臓から出てきた左右の胆管が合流する部位のことで、ここに発生する癌を『肝門部胆管癌』といいます。胆管癌の中では肝門部胆管癌の発生頻度が最も高いと言われています。

胆嚢は、洋ナシのような形をした袋状の小さな器官で、胆汁を一時的にためておく貯蔵庫の役割をしています。一般的に、胆嚢癌は胆石を保有していることが多く、これまでにも癌との関連性が示唆されてきました。しかし、胆嚢癌患者における胆石の保有率は高いものの、胆石のある人が胆嚢癌になる確率は極めて低いことが明らかになってきました。従って、現在では無症状の胆嚢結石症であれば、原則として胆嚢を摘出する手術(胆嚢摘出術)を行う事はありません。

症状は?

胆管癌は50~60歳代の男性に、胆嚢癌は胆石をもつ60歳以上の女性を中心に発症します。どちらも早期には自覚症状がほとんどありません。健康診断や人間ドックなどで偶然見つかるケースもありますが、多くは発見が遅れがちになります。進行すると、癌が胆管をふさいで胆汁の流れを妨げるため、黄疸が現れます。胆汁に含まれる黄色い色素“ビリルビン”が血液中に増加して、全身をめぐることにより、皮膚や白目が黄色く見えるようになるのです。ビリルビンは尿の中にも排出されますから、紅茶色の濃い尿が出るようになります。また、胆汁が腸の中を流れなくなるので、便が白っぽくなります。さらに皮膚のかゆみや食欲低下、全身の倦怠感などを伴うこともあります。

診断は?

胆道癌に対する最初の検査は、腹部超音波検査(US)が一般的です。近年では画像診断技術の進歩により、特に胆嚢癌では、かなり小さな癌でも発見できるようになってきました。しかも苦痛や肉体的な負担がなく、入念に検査できるのも大きなメリットです。一方、胆管癌は腫瘍として風船が膨らむように成長することは少なく、大部分は周囲の組織に浸み込むように浸潤・発育していきます。そのため、かつては診断が中々難しかったのですが、現在では、胆管の拡張状態から癌の存在部位をほぼ正確に診断できるようになっています。

胆道に何らかの異常が発見された場合は、CTやMRIといった検査でさらに詳しく癌の広がり具合や、ほかの臓器に転移しているかどうかを調べます。口から入れた内視鏡を十二指腸まで送り込み、乳頭部から造影剤を注入するERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)という方法で、胆管の詳細な状況を調べることもよく行われます。

黄疸がある場合は、まず、胆道ドレナージという黄疸をとる処置を行う必要があります。黄疸があると手術、抗癌剤治療などができません。胆道ドレナージには、体表から針をさして胆管に管を入れる方法(経皮経肝胆道ドレナージ)と内視鏡を使って十二指腸乳頭部から胆管に管を入れる方法(内視鏡的ドレナージ)とがあります。癌の部位や状態によってどちらかの方法を選択します。胆汁は体に非常に大切なものなので、当科では胆道ドレナージによって体外に排泄された胆汁は、患者さんに飲んでもらい、腸にもどすようにしています。また、黄疸の下がりの悪い患者さんには、漢方処方として茵陳蒿湯(いんちんこうとう)などの薬を使用します。

手術は?

治療は開腹手術が基本で、胆管癌や胆嚢癌に腹腔鏡下手術は行いません。最も手術が難しいのは肝門部胆管癌です。肝門部は胆管をはじめ、肝動脈、門脈といった重要な血管が肝臓に入る非常に複雑な場所だからです。しかも癌は肝臓の中の胆管(肝内胆管)へ広がりやすいため、胆管だけでなく肝臓も大きく切除する必要があります。ただ肝臓は切り取れる範囲に限りがあるため、癌が広がり過ぎていたり、肝機能が低下している場合には、『経皮経肝門脈枝塞栓(そくせん)術』を施します。これは手術の2-3週間前に、切除する予定の肝区域の門脈の血流を止めてしまう処置です。局所麻酔下で細いカテーテルを使って行いますが、1-2時間で済みます。こうすると残す方の肝臓が大きく(肥大再生)なるので、術後の肝機能低下を防ぐことができ、手術が安全にできるようになります。胆管の中央部や下部に発生した癌には、膵頭十二指腸切除といって、胆管とともに膵頭部と十二指腸を切除する手術を行います。

胆嚢癌の場合、初期であれば胆嚢だけの摘出で十分です。しかし、進行して隣接した肝臓や十二指腸、リンパ節などにも癌が達しているときは、切除の領域はもっと広くなります。非常に進行した癌には、肝臓とともに膵頭部と十二指腸を一塊にして切除する肝膵十二指腸同時切除といった超拡大手術も必要になります。

手術後は2-3ヶ月に一度の血液検査、4-6ヶ月に一度のCT検査で再発の有無をチェックします。胆嚢や胆管を切除すると、便が柔らかくなるなどの症状が出ることもありますが一時的なものです。肝臓も再生力のすぐれた臓器なので、切除しても生活にはほとんど支障はありません。元通りの生活ができると考えていただいて結構です。

受診するなら、ぜひ専門施設へ!!

残念ながら、現在のところ胆道癌の予防法はありません。黄疸が出たら、すぐに病院を訪れてください。その際、できる限り専門施設を受診するようにしましょう。特に肝門部胆管癌や進行胆嚢癌の手術は、難易度が極めて高くなります。手術時間で見ても、乳癌に対する乳房切除術は1-3時間、胃癌に対する胃切除術は3-4時間、大腸癌に対する結腸切除術は2-4時間ですが、肝門部胆管癌に対する肝切除は8-12時間もかかります。門脈や肝動脈を切除して再建するような手術では更に時間がかかることもあります。

乳癌、胃癌、大腸癌などの手術は、専門施設でも一般の市民病院でもその治療成績に大きな差はありません。しかし、難易度の高い手術の治療成績は施設によって大きく異なり、手術症例数の多い施設ほど治療成績が良好であることが明らかになってきています。当科の胆道癌に対する肝切除症例数、施行している手術の難易度、手術成績は他施設を圧倒しており、“胆道癌外科治療の名大”として拡く世界に知られています。

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