DISEASE

低侵襲手術(単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術)

当科での単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術

胆石症をはじめとする胆嚢良性疾患に対して、患者さんへの侵襲(体の負担)を小さくすることを目的に、腹腔鏡下胆嚢摘出術が本邦で導入されて30年が経過しました。腹腔鏡下胆嚢摘出術は、お腹に3~4ヵ所の穴(1-2cmの創)を開けて行う手術です。この方法は、胆嚢良性疾患に対して多くの施設で施行されている最も標準的な手術方法です。
これに対し、患者さんへの侵襲をさらに軽減することを目的に、単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術が開発されてきました。単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術は、臍(へそ)に2-2.5cmの1ヵ所の穴を開けて全ての操作を行う手術です(図1)。

当科での単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術 図1

図1

単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術の長所として、創が1ヵ所のみで臍に隠れてしまうため美容面で非常に優れています(図2)。通常の腹腔鏡下胆嚢摘出術と同様に、手術後の回復が早く早期退院および早期社会復帰が可能となります。

当科での単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術 図2

図2

しかしながら、単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術は通常の腹腔鏡下胆嚢摘出術と異なり、手術手技が複雑なため、現時点では限られた施設でのみ施行されています。当教室は単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術を2010年に導入しました。単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術の対象となる疾患は、通常の腹腔鏡下胆嚢摘出術と同様に胆嚢良性疾患全般となります。しかし、単孔式胆嚢摘出術を施行している多くの施設は、胆嚢炎合併症例を対象疾患から除外しています。当教室では、胆嚢炎合併症例に対しても、積極的に単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術を導入しています

さらに、手術の安全性を高める手技として、ICG蛍光内視鏡を利用した手術(図3)を施行しております。これは、手術時にインドシアニングリーン(ICG)という胆汁中に排泄される薬剤を注射で投与し、赤外線光をあてて胆嚢・胆嚢管・総胆管を光らせて部位を確認しながら行うナビゲーション手術です。この手技は、手術中の胆管損傷の回避や胆汁瘻の予防に役立ち、安全な手術の実施が可能となっております。

また、大学病院であるため、良性胆嚢疾患以外の併存疾患(いわゆる持病、透析中、抗がん剤治療中、稀な疾患で内服中、など)を持っている患者さんに対しても、各診療科の協力を得ながら、安全に単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行しています。

手術成績

当教室では、2010年から2022年までに胆嚢良性疾患に対して、単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術を364例に施行してきました。上腹部の手術(お腹の上の方の臓器である、胃、肝臓、膵臓などの手術)を受けたことがある患者さんなどでは、従来式の腹腔鏡下胆嚢摘出術を選択し、112例に施行してきました。

開腹移行率(開腹手術に変更した率)は、単孔式で1.1%(4例)、従来式で11.6%(13例)であり、単孔式の開腹移行率は従来式と比較しても良好な成績でした。また、単孔式でのポート追加率(穴を追加した率)は0.8%(3例)であり、単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術の完遂率は、98.1%(357例)でした。単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術を完遂できなかった7例中、胆嚢炎症例は4例、上腹部の手術既往のある症例は2例、術中胆嚢癌が判明した症例は1例でした。

胆嚢炎を伴った症例に対し、単孔式を134例に、従来式を54例に施行してきました。特に、胆嚢炎がひどく手術前に経皮経肝胆嚢ドレナージ(胆嚢内の感染した胆汁や膿汁を排出させる処置)を施行した症例に対し、単孔式を57例、従来式を16例に施行し、その開腹移行率は単孔式で1.8%(1例)、従来式で12.5%(2例)であり、経皮経肝胆嚢ドレナージを施行した症例においても、単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術の完遂率は良好でした。

良性胆嚢疾患について

良性胆嚢疾患は大きく分けて、①胆嚢結石症(無症状、有症状、胆嚢炎)、②胆嚢腺筋腫症(胆嚢アデノミオマトーシス)、③胆嚢ポリープ、などがあります。

  1. 胆嚢結石症

    胆石症は、健康診断や人間ドックで腹部超音波検査をきっかけに発見される無症状のもの、食後(脂質の多い食後)に発作的にみぞおち(上腹部)や右の肋骨の下(右季肋部)に発生する痛みや違和感など有症状のもの、痛みが持続し発熱も伴い急性胆嚢炎になったもの、発作的な痛みや違和感を繰り返し慢性胆嚢炎となったもの、胆嚢内の結石が胆嚢管から胆管内に移動し総胆管結石を併発したもの、などと多種多様にわたります。このうち無症状の場合は、手術をしないで様子をみること(経過観察)が可能であり、患者さん本人の強い手術希望がある場合に限り、手術を施行します。他の場合は基本的に手術治療が推奨される状態です。

  2. 胆嚢腺筋腫症

    胆嚢腺筋腫症とは、何らかの要因によって胆嚢に別の袋状のものが増殖し、胆嚢の壁が厚くなる病気です。このとき増殖する袋状のものを、RAS(ロキタンスキー・アショフ洞)と呼びます。RASは胆嚢の粘膜から、筋層(粘膜の下層にある筋肉層)や漿膜(しょうまく:筋層よりも下層にある組織の層)に向かって落ち込む形状をしています。袋のなかは空洞で、胆汁などの水分が溜まり、壁内結石になることがあります。RASはほとんどの場合良性で、大きくなることは少なく、経過観察可能です。しかし、胆嚢結石や胆嚢炎に合併し、症状を引き起こすことがあります。また、胆嚢癌との鑑別が困難な場合もあります。経過観察中に変化を認めれば手術治療が推奨されます。

  3. 胆嚢ポリープ

    胆嚢内にできる隆起性(もりあがった)の病変です。健康診断や人間ドック、別の疾患で腹部超音波検査を施行し発見されることが多いです。コレステロールポリープ、過形成ポリープ、腺腫性ポリープ、などがあります。ほとんどが良性病変で無症状であり、経過観察が可能です。ただし、経過観察中に大きくなったり、形態が変わったりする場合に、手術治療が推奨されます。

その他

胆嚢良性疾患について、経過観察可能か否か、手術すべきか否か、など、疑問やわからいことがあれば、気軽に担当スタッフまでお尋ねください。

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