潰瘍性大腸炎とは?
大腸に潰瘍やびらんができる原因不明の炎症性腸疾患で、1973年に厚生労働省の特定疾患に指定されました。指定難病の受給者証所持者数の推移でみると、潰瘍性大腸炎の患者数は年々増加し、2016年末は167,872人となっています。その後は大きく減少していますが、これは潰瘍性大腸炎の認定基準が変更になったためで、実際の患者数は増加しているものと考えられます。
発症年齢は30~39歳にピークがみられますが、比較的高齢で発症する患者も増加してきています。性別で発症率に差はありません。
原因
潰瘍性大腸炎の原因は十分には分かっていません。遺伝的な素因に食餌や感染などの環境因子が関与して、腸管免疫や腸管内細菌叢の異常が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
症状
主な症状として、下痢や軟便、血便、腹痛などがみられます。症状が強くなると、1日に20回以上の下痢や血便、その他に発熱、体重減少、貧血などもみられることがあります。
合併症
腸管合併症として、穿孔、出血、狭窄、中毒性巨大結腸症(炎症が広範囲に大腸の筋層内の腸管神経叢に及び腸管収縮機能が失われて大腸が過度に拡張した状態)や大腸がんの併発などがあります。潰瘍性大腸炎発症後10年で約2%、20年で約10%、30年で約20%に大腸がんを併発するとの報告もあり、これらの大腸がんは通常の大腸がんに比べて悪性度が高いことが知られています。また、大腸以外にも関節、皮膚、眼、肝臓などに合併症が生じることが知られており、これらには免疫異常が関係していると考えられています。
外科的治療
手術適応
絶対的手術適応
- 大腸穿孔、大量出血、中毒性巨大結腸症
- 重症型,劇症型で強力な内科治療(ステロイド大量静注療法、血球成分除去療法,カルシニューリン阻害剤,生物学的製剤,JAK阻害剤)が無効な例
- 大腸癌およびhigh grade dysplasia(UC-Ⅳ)
相対的手術適応
-
難治例
内科的治療(ステロイド,血球成分除去療法,アザチオプリン,6-MP,カルシニューリン阻害剤,生物学的製剤,JAK阻害剤)などで十分な効果がなく,日常生活,社会生活が困難なQOL低下例(便意切迫を含む),内科的治療で重大な副作用が発現,または発現する可能性が高い例.
-
腸管外合併症
保存的治療に抵抗する壊疽性膿皮症など.
- 小児の成長障害
-
大腸合併症
狭窄,瘻孔,low-grade dysplasia (UC-Ⅲ)のうち癌合併の可能性が高いと考えられる例など.
術式
原則的には、全大腸を切除します(大腸全摘術)。術式の詳細は以下のA~Cの組み合わせで決まります。
A 手術回数
-
1期手術
一度に切除、吻合を行います。
-
2期分割手術
第1期手術で切除・吻合及び一時的に人工肛門を作り、しばらく肛門吻合部の安静を保った後(3-6ヶ月間)、第2期手術で人工肛門を除去します。
-
3期分割手術
第1期手術では直腸以外の大腸のみを切除(亜全摘)し、第2期手術で完全に大腸を切除、吻合、及び一時的人工肛門を造設し、第3期手術で人工肛門を閉鎖します。患者さんの全身状態が非常に悪いときなどにこの術式を選択します。
B アプローチ方法
-
開腹手術
腹部中央を縦に約10~15cm程切開して開腹下に全大腸を切除します。
-
腹腔鏡下手術
腹部に器械を入れる穴を5~6箇所開け、腹腔鏡で観察しながら全大腸を切除します。
一般に腹腔鏡下手術では、美容的な面に加えて手術直後の身体の回復が従来の開腹手術より早いことや術後の痛みが少ないこと等の利点がある一方で、器械で手術をすすめる事による臓器の副損傷の可能性や出血への迅速な対応が難しいこと、手術時間が若干長くなること等のデメリットがあります。
大腸全摘術 術式
C 吻合法
回腸末端部にて約12cmの回腸嚢(直腸の代わりに便を溜める袋)を作成し、これを肛門もしくは肛門管と吻合します。
-
回腸嚢肛門吻合(IAA)
直腸粘膜を肛門付近(歯状線)までほぼ完全に切除するため、潰瘍性大腸炎の再燃や発癌の可能性がなくなる反面、排便機能が低下する可能性が若干高くなります。
-
回腸嚢肛門管吻合(IACA)
一般的にはIAAに較べて排便機能の低下は若干少ない反面、一部残存した直腸粘膜の炎症の再燃や癌化を併発する可能性がわずかに残ることになります。
-
回腸直腸吻合(IRA)
残存する大腸が多くなるため、炎症の再燃や癌化の問題があり、現在はほとんど行われなくなっています。
-
永久回腸人工肛門造設
肛門温存が不可能進行直腸癌症例、肛門機能低下症例、ADLの低下している高齢者などに行います。
潰瘍性大腸炎に対する術式(吻合法)
大腸全摘術
+
- 回腸嚢ー肛門吻合:IAA
- 回腸嚢ー肛門管吻合:IACA
- 回腸ー直腸吻合:IRA
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IAA | IACA | IRA | 回腸人工肛門 | |
---|---|---|---|---|
炎症の再燃 | (ー) | (±) | (+) | (ー) |
発癌リスク | (ー) | (±) | (+) | (ー) |
吻合方法 | 手縫い吻合 | 器械吻合 | 器械吻合 | なし |
手術難易度 | 難 | 中 | 易 | 易 |
術後排便機能 | やや劣る | ほぼ良好 | ほぼ良好 | (ー) |
現在当科では基本原則として、
A2 2期的に
B2 腹腔鏡下大腸全摘術、及び
C1 回腸嚢肛門吻合術を行う術式
を第一選択の術式としていますが、詳細は術前の患者さんの病状・希望を考慮の上、最終的な術式を決定しております。腹腔鏡下によるアプローチ方法は当科では2008年より導入しており、現在では待機手術例の全例を対象に、また重症型でも全身状態、腸管の状態が許せば腹腔鏡下に実施しています。
術後の経過
大腸全摘術の入院経過
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入院経過 | 経口摂取 | 投薬 | 処置・検査など |
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術前 | ー | ー |
|
術後第1病日 | 水分 | 抗生剤点滴 |
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術後第2病日 | ー | ー |
|
術後第3病日 | 5分粥 | ー |
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術後第4病日 | 7分粥 | ー | ー |
術後第5病日 | 全粥 | ー |
|
術後第6病日 | 全粥 | ー | ー |
術後第7病日 | 普通食 | 整腸剤 |
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術後第10〜14病日 | 5分粥 | 排便量が多ければ止痢剤 |
|
術後3〜6ヶ月 | ー | ー |
|
当科での潰瘍性大腸炎手術件数の推移
クローン病とは?
口腔から肛門までの消化管全域に非連続性の炎症および潰瘍を起こす原因不明の疾患で、潰瘍性大腸炎とともに炎症性腸疾患に分類され、厚生労働省の特定疾患に指定されています。指定難病の受給者証所持者数の推移でみると、クローン病の患者数は年々増加し、2018年末は42,548人となっています。
10歳代~20歳代の若い方に発症しやすく、日本においては男性と女性の比は約2:1と男性に多くみられます。
原因
クローン病の原因は十分には分かっていません。遺伝的な素因に食餌(動物性蛋白質や脂質など)や腸内細菌、喫煙などの環境因子、腸内の免疫機能の異常が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
症状
腹痛、便通異常(特に頻回の下痢)、発熱、体重減少、肛門症状等々、症状は炎症の部位や合併した病態により多岐にわたります。
分類
病変部位による分類
小腸型 | 小腸のみに病変がある |
---|---|
大腸型 | 大腸のみに病変がある |
小腸大腸型 | どちらにも病変がある |
病変部位別に累積手術率を解析した報告がみられます。通常は、大腸型は手術率が他の病型と比べて低く、小腸に病変を有する小腸型や小腸大腸型では手術率が高いことが報告されています。
病態による分類
狭窄型(Perforating type) | 腸管に狭窄を生じるタイプ |
---|---|
穿通型(Non-Perforating type) | 腸管に瘻孔や穿孔を生じるタイプ |
炎症型(Inflammation type) | 狭窄や瘻孔を合併していないタイプ |
Perforating typeはNon-Perforating typeと比較して、累積手術率や再手術率が高いとされています。
外科的治療
手術適応
絶対的手術適応
- 穿孔,大量出血,内科的治療で改善しない腸閉塞,膿瘍(腹腔内膿瘍,後腹膜膿瘍)
- 小腸癌,大腸肛門管癌(痔瘻癌を含む)
相対的手術適応
内科治療で改善が困難,または生活の質(QOL)の低下を伴う病変.
- 難治性腸管狭窄
- 内瘻(腸管腸管瘻,腸管膀胱瘻など),内科治療が無効な難治性外瘻(腸管皮膚瘻)
- 小児の成長障害
- 狭窄や瘻孔を伴わない活動性腸管病変(上皮化のない縦走潰瘍など)
- 難治性肛門部病変(複雑痔瘻,直腸膣瘻,肛門狭窄など),直腸肛門病変による排便障害(頻便,失禁などQOL低下例)
術式
腸管病変に対する手術
病態によりさまざまな手術が行われます。クローン病に対する手術の基本は、最小限の腸管切除にとどめることであり、病変の部位・程度により切除と狭窄形成術を組み合わせて行います。また、手術時には、通常の検査では検索が難しい全小腸を検索する(「腸の地図を描く」と患者さんには説明しています)ことが可能であり、病変の範囲や程度を明瞭にして、今後の内科的治療の計画に役立てます。
当科では、できる限り患者さんへの手術の負担を軽減する目的で、腹腔鏡下手術にて腸管の癒着剥離と授動を行い、その後、小開腹手術にて腸管切除と吻合を行っています。腹腔鏡下手術を2010年より導入し、現在では、初回手術/再手術,狭窄型/瘻孔型にかかわらず待機手術例のすべてを腹腔鏡手術の適応としています。クローン病に対する腹腔鏡手術は,通常の開腹手術と比較して,術後の再発率といった長期経過については差がないと考えられていますが,術後合併症や術後在院期間などの短期治療成績や整容性に関しては開腹手術を上回る可能性があります.
クローン病の小開腹手術
肛門病変に対する手術
クローン病においては非常に高い頻度で肛門付近に病変ができます。その病変としては、裂肛、肛門潰瘍(クローン病の特徴である縦走潰瘍に似た病変が肛門にできる)、肛門周囲膿瘍、痔瘻などがあります。肛門周囲膿瘍では痛みや熱を伴うので、皮膚を切開し膿を出して(切開排膿)、抗生剤を投与します。クローン病の痔瘻は多発したり繰り返すことが多いので、一般的にシートン法が行われます。直腸と肛門周囲の皮膚につながる「痔瘻」や肛門周囲に貯留する「膿瘍」に対して、ゴムやチューブを瘻管に通して膿を持続的に排出させ症状を改善させる治療です。また肛門の炎症が強い場合や排便コントロールができない場合、シートン法でコントロールができない痔瘻の場合などには、人工肛門をつくることがあります。人工肛門は一時的で後に閉鎖する場合と、永久的となる場合があります。
シートン法の基本的な手技
自験例
クローン病手術の入院経過
クローン病手術の入院経過
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入院経過 | 経口摂取 | 投薬 | 処置・検査など |
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術前 | ー | ー |
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術後第1病日 | 水分 | ー |
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術後第2病日 | 水分 | ー |
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術後第3病日 | ED:1P (1P/300ml/300kcal) |
5-ASA |
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術後第4病日 | ED:2P (1P/300ml/300kcal) |
ー | ー |
術後第5病日 | ED:3P (1P/300ml/300kcal) |
ー |
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術後第6病日 | ED:3Pと低残渣食 | ー | ー |
術後第7病日 | Half ED 継続 | ー |
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術後第10〜14病日 | Half ED 継続 | ー |
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術後3〜6ヶ月 | Half ED 継続 | 内科治療 |
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手術後の治療
クローン病の病変は再発しやすいことが特徴で,腸を切除しても完治するわけではなく,再手術が必要になる症例も少なくありません.手術後の再手術率は,5年で16~43%,10年で26~67%と報告されており,手術のあとにも,内科的治療を適切に行い再発を予防することが大切です.手術後に再発を起こしやすいとされる原因については,様々な意見があり,確定はされていません.喫煙は手術のリスクを高めることが知られており,禁煙が強く勧められます.広範な小腸病変が残っている患者さん,瘻孔のため手術を受けた患者さんは,再手術率が高いとの意見が多くみられます.現在のところ,再発を確実に予防する方法はありませんが,5-ASA製剤,免疫調節薬,栄養療法,抗TNF-α抗体製剤などは,術後再燃の予防効果があるとする報告があります.症状による再燃の前に内視鏡検査などの画像診断で認識される再燃が起こるので,術後6~12ヶ月を目処に吻合部や他の小腸大腸に対する内視鏡検査や造影検査を行い,病変の再燃が確認された場合には,これまでの治療内容や評価をふまえ,内科的治療の変更や強化を適切に行っていきます。
当科でのクローン病手術件数(肛門病変に対する手術を含む)の推移
クローン病腸管切除例に対するアプローチ方法の推移